名称:熱エネルギー工学研究室
所在地:〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1 工学部2号館
https://www.phonon.t.u-tokyo.ac.jp/
工学と一概には言っても、その中身は広く多岐に渡ります。その中に位置付けられる機械工学科の中でも、同様にさまざまな研究テーマがあり、機械と言いつつもその言葉の直接的なイメージからは少し離れるようですが、熱エネルギー工学という分野に対して、ナノの部分にまで触れてアプローチする研究がなされています。今回は、そんな熱エネルギー工学研究室について紹介します。
この研究室では、複数の研究テーマが扱われています。熱という抽象的なようで、しかし我々の現実世界からどうしても切り離せないもの、そしてそれほどに我々の大好きなもの、に対してこれからの社会に応用していく様な研究をされています。熱というのは、私たちが直感的に感じる以上に我々の社会に深く結びついています。最近の社会では空調なしの生活は考えられないでしょう。お風呂に入ることや、調理をすることを考えてみてください。熱を利用し、あるいは熱を発生させています。もっと身近なところに目を向ければ、私たち自身が挙げられます。私たちが息をする、歩く、食べる、そういった全ての行動に伴って、熱は発生し、また利用されているのです。こうしたありふれた熱というものをいかに工学的に応用し、社会に適用するか。こうした根源的でかつ実用的なアイデアに取り組んでいます。
本研究室では、大きく6つのテーマに取り組んでいて、それらを通して熱エネルギーの効率的な活用や、省エネ技術の革新をさせる、ということを目指しています。
熱を電気に直接変える技術で、半導体を使ってこのデバイスに温度差をかけることで、電流を流すための電気電圧が生じて、電力をもたらす、という流れです。日常の中に有り余っている、こうした「熱」という題目に着目し、適当な場所に置いておくことで電気を生み出すことができる、という技術について研究をしています。N型とP型のデバイスがあるわけですが、これらを並べて温度差をかけると、温度が高い方から低い方へとキャリアと呼ばれるものが移動します。これらをうまく並べることでこちらではプラスのキャリアが、別のところではマイナスのキャリアが移動することで総じて見ると、電流が流れる、というようなことが起こります。
固体表面に液滴を垂らした時にどうなるのか、というところを取り扱っています。これがどういうところに働いているかというと、例えば今の電気自動車というのは、車内を温めるために暖房を使うとすると、熱交換が必要になってくるのでいわゆる室外機の部分は冷えている状態になります。そして冷えているところに、水が凝縮してそれが凍って根詰まりを起こしてしまうと。当然根詰まりが起こればその分効率が悪くなってしまい、その部分の問題を解消しなければなりません。従来の電気自動車はその問題に対して、わざと電気を使ってヒーターでそこを温めてとかして、ということをしているわけだけれども、それがそもそも液滴がつかないような表面だったら面白いな、という感覚であったり。要するには、水が表面についたときに、どういう力学、動力学があるのかということだったり、表面の構造そのものがどんな形であるのが理想的なのか、ということだったり、というのを研究し、それらを制御できるようにしてやろう、といったあたりがこの表面の濡れ性というテーマになります。
あるいは、細い微小管を通る液体の挙動を調べてみるというのもあって、流体力学等を学んでも、このミクロの世界ではそれが通じない、といったこともあって、その部分も面白い研究対象の一つになっています。こうした研究は、例えば海水の淡水化技術等にも応用されるような話であり、興味深い分野です。
例えば一例を挙げると、材料表面に微小な溝を掘っておいてやって、その材料の上に小さな液滴を垂らしておくとします。この時、この溝の様相によって、ある特定のサイズの液滴のみを動かすことができるようになることが確認できます。こういった部分をうまく制御してやろうと研究を進めているわけです。
本研究室は「材料」というところにもよくこだわっている研究室の一つであると考えています。元来、材料というのはかなり日本の強い分野ではあり、これまではその材料というものありきで考えてそれを組みあげてやるということが、一つのイノベーションのあり方であったとも言えますが、それに対して現在は、材料そのものも自分たちで考えて、そこからシステムに突き上げることができればより良いイノベーションが成せるのではないか、と考えています。
材料を開発しようとすると、色々な複雑に絡み合った自由度が考えられます。元素そのものも周期表を見てわかるようにたくさん存在している上に、それがまたさらに結合だったりをすることで織りなす結晶構造というところまで考えると、本当にたくさんの可能性が考えられるのです。こういった側面に対して、旧来はトライアンドエラーという形がおおよそ主流であるというような形でしたが、現在ではロボットを使って機械学習をさせることで、時には量子コンピューター等を利用しながら、その処理速度そのものも上げてやろう、といったところまで研究しているのが、マテリアルズインフォマティクスというところになります。
こういった材料の分野は意外に思われるかもしれませんが、機械系の研究室も多くの人が参画している分野の一つです。ある種機械という壁を飛び越えて、こうした分野の研究も行なっているわけですが、この材料というテーマを研究するにあたっては、機械学習をさせるといったところが大きなポイントで、そうした部分がかなり機械系とマッチしているというように考えることができるわけです。
現在はお話しいただいたようにミクロな部分についても研究をされていますが、学生の頃からこうしたミクロの分野についても興味を抱いていらっしゃったのでしょうか。
必ずしも、そういうわけではない、というのが私自身の記憶です。学生の頃は、そもそもは超音速飛行機に携わりたい、という思いが強くあり、博士の頃までは必ずしもミクロというわけではなく、宇宙でものを作るときに何が起こるだろう、といったことであったりを研究していました。ミクロの世界に足を踏み入れたのは、自分がプロの研究員になったところからでした。これが良いか悪いかというのはさておき、その当時はこうした機械系の学科でミクロの分野を扱っているところが少なかったというのはあって、今ならば最初からそうした部分に取り組んでいたかもしれないしそうではないかもしれませんが、総じて見ると、そうしていろんな分野に取り組んできたという経験値が、今の自分にとって重要であったなと感じています。
これまでお話ししたように、本研究室では、熱化学や固体物理学、あるいは表面の化学とかといったところを融合するような基礎研究をしています。あるいは、そこから実際のデバイスを作ったり、機器に応用したり、社会実装したりというところもあります。
このように、まさにそういった節操のない幅広さというところが、大きな機械系の醍醐味だと思っています。流体であったり分子スケールの話であったりに触れてくることが少ないようであっても、本研究室の学生たちはその部分をキャッチアップして研究に取り組んでくれています。こうしたように、機械だから、と他の部分を削ぎ落とすのではなく、むしろ色々なところに足を伸ばしてみることが大切だと感じています。排他的にものを考えるというわけではなく、その部分に軸足を置いて流動的にいることが機械系の良さであり、これからの時代に求められる姿勢なのではないかなと思います。吸収を止めず、頑張ってください。