キカイ×ワールド
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Lab Data

名称:東京大学生産技術研究所 大島研究室
PI:大島まり(生産技術研究所/情報学環・学際情報学府 教授)
所在地:駒場IIキャンパス 生産技術研究所 De-505
URL:http://www.oshimalab.iis.u-tokyo.ac.jp/japanese/

Prologue

機械工学科では幅広い学問を学ぶことができる。その幅広さを実感できる一例として、ここでは大島研究室を紹介しよう。
大島研究室では生体、特に血管中の血液の流れを機械工学(の一つの流体力学)の観点から分析、研究している。血液の流れも流体力学で説明が付くと考えれば一見当然に思えるが、生体を相手にするからこその難しさも存在する。例えば、年齢や身長のようにパラメータが無数にあるために個人差が無視できないのは一般的な流体力学との大きな差である。こうした難しさにどう対処しているのかにも注目しつつ、一味違う機械工学の世界に触れてみてほしい。

Interview with Prof. Oshima

ーーどのような研究をされているのですか。

生体現象は非常に複雑な物理現象ですが、それらを力学の観点で解析・研究しています。特に血液の流れに関する循環器系のシミュレーションを流体力学を用いて行っており、輸送現象や構造の連成に着目しています。

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(医用画像から血管の3次元モデルを構築するシステムV-Modeler(研究室HPより))

最近の研究としては、医療データの不確かさ解析が挙げられます。計測されたデータには計測装置などによる不確かさが必ず含まれますが、これはシミュレーションをする中で伝播していき、最終的な解析結果にも影響を及ぼします。そのため、不確かさを確率的にきちんと把握することで不確かさの影響を考慮した解析結果を出せるようになり、その結果を臨床への応用として医師にも提供できます。
この不確かさ解析を行うためには多くのデータを解析しなければいけませんが、すべてをシミュレーションで解析するのは非常に大変です。そこで、機械学習を取り入れて、シミュレーション結果を教師データ(学習元のデータ)として使った解析を行っています。学生による研究も医療画像についてのもの、不確かさ解析についてのもの、シミュレーションについてのものがあり、これらを総合して機械学習による不確かさ解析の研究を行っています。

ーーシミュレーション結果の精度はどのように評価するのですか。

以前はシミュレーションと並行してモデル実験も行っていたので、自分の研究室で計測した実験データと比較を行ったりしました。また、協力していただいている医師の方や他の研究室から頂いた計測データと比較することでも精度評価を行っています。しかし、実験にも不確かさがあるので、今はシミュレーションに用いるデータに起因する不確かさも含めて総合的に評価するようにしています。

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大島教授の写真(上)。
大学院では原子力工学専攻だったが、原子炉の管内流れの研究を行われていたそうで、当時から一貫して管内流れを扱っているんだとか。
ーーバイオと機械系のつながりはどのような部分にあるのですか。

研究のベースは流体力学になっていて、血流によって血管壁に作用する力(壁面せん断応力など)を調べたり、その力が細胞にどう影響するのかを研究したりしています。また、手術を行う前後で血流がどう変化するかを、全身の血流を考慮したマルチスケールでシミュレーションを行っています。一見すると生物分野がメインのように思えるかもしれませんが、基本は流体力学を使った研究をしています。

ーーin vivo(生体内)とin vitro(生体外)の差はどのようなところにありますか。

in vitroは実験条件をコントロールできますが、in vivoは様々な要素があって実験条件をコントロールすることが難しいことが挙げられます。そこで、コンピュータ上でパラメータを変えながらシミュレーションを行い、そこに深層学習を用いて感度解析(各パラメータが結果にどう影響するかを解析する手法)をすることで重要なパラメータを絞り込み、in vitroの実験を設計するのに役立てています。シミュレーションを用いることで、in vitroのパラメータの条件を論理的に解析してin vivoにもフィードバックできるので、シミュレーションは2つの条件を繋ぐのに重要な役割を果たしています。

ーー学生へのメッセージをお願いします。

・機械系について
機械工学は力学のベースになっていて、世の中の現象は力学に支配されることが多いです。そのため、生活と切り離せない物理的現象を考える上でとても大切で根本的な学問といえます。また、機械系学問としても重要で産業の基盤になるので、興味を持ってもらいたいと思います。ぜひ女性にも来てもらいたいです(笑)

・研究室について 「バイオと機械」は接点がないように思うかもしれません。しかし、体の中でも物理現象としての力学は存在していて、そうした力学の面白さ、幅広さを経験できる研究室なので興味があればぜひ来ていただきたいと思います。

大島先生ありがとうございました!

Voices of students

博士課程の5人の学生さんにお話を伺いました。質問した項目はこの4つです。
①どのような研究をされていますか?
②研究室・研究テーマを決めたきっかけは?
③この研究室の良いところは?
④目指す進路は?

陳さん(当時博士4年)

①医療画像から血管モデルを作る手法の研究をしています。大量の医療画像にある個人間の差は何かについても調べています。 ②以前医療画像の深層学習をしていた際に、人の顔の画像などと比べて機械に認識させるのが難しかったのですが、これがなぜかを解明したいと思ったことがきっかけです。 ③この研究室は機械系と情報系出身の人がいて分野横断的なので、違う分野の人に囲まれて新しい体験ができるところです。 ④博士号を取った後、研究を続けてデータサイエンス関連の研究をしていきたいと思っています。

陳さん(当時博士4年)

Thomasさん(当時修士2年)

①脳の微小循環(微小でCT画像などでは映りにくい部分)のモデリング構築をしています。患者さん個人のモデルを作るにはどのようなアプローチが必要かについても研究しています。 ②先生から勧められた論文や、先輩の論文を読んで問題点を知り、どういう解決法が面白いかを考えた結果このテーマに決まりました。テーマを自由に選んで自分の好奇心を実現できるようにしてくれた大島先生には感謝しています。 ③文化の多様性です。いろんな国からの学生が集まっているので、文化をシェアできます。また、言語も多様で中国語、日本語のほか、英語・ベトナム語・フランス語の3か国語を話せる人(Alexさん)もいます。言語と考え方は深く繋がっているので、新しいアイデアが生まれることにもつながると思います。 ④将来教員を目指したいと思っています。博士号をとって就職するか、准教授になって学会に残る予定です。

Thomasさん(当時修士2年)

Alexさん(当時修士2年)

①医療画像が持っている不確かさを定義する研究をしています。各患者さんで血管の形状に差があるので、その形状の不確かさを定義して、モデルをより完全なものにすることを目標にしています。 ②先輩の論文を読んでいたときに不確かさ解析に関する課題の項目を見つけて、自分でシミュレーションを繰り返すことでその問題を把握できたので、それを解析しようと思いました。 ③いろんな専攻の人がいるので、研究のための相談がしやすいところが良いと思います。 ④現在就活中で、医療機器の開発・研究をしたいと思っています。

Alexさん(当時修士2年)

亀田さん(当時修士2年)

①機械学習の範囲を拡張して、医療画像から取り込むデータを適用できる範囲を広げる研究をしています。今ある研究室の機械学習のシステムをアップデートすることを目標にしています。 ②学部時代は別の流体力学の研究室にいて、自動車の部品の中の流体の解析をしていました。大学院でも流体力学に軸を置きつつ研究をしたいと思っていて、バイオ系への興味もあったのでこの研究室を選びました。 ③自主性を大切にしているところです。自分から課題を発見したり、周りと協力したりと自主的に学ぶ姿勢を身につけることができる研究室だと思います。 ④IT・コンサル系の企業に就職して何らかの形で医療・ヘルスケア系に携わりたいと思っています。

亀田さん(当時修士2年)

今井さん (当時修士2年)

①機械工学の観点から、流体シミュレーションを行う際のモデル作成にかかるコストの削減を目標に研究をしています。いかに工数を減らして様々なモデルを作るかを考えています。 ②もともと流体とシミュレーションに興味があって、大学院ではプログラミングで流体のモデル情報を扱うことに興味があったので、うまくいきそうと思い今のテーマに決めました。 ③機械系の学生だとプログラムの質には限界がありますが、この研究室には情報系の学科出身の学生もいるので、その人たちの書いたプログラムを参考に学べるのが良いと思います。 ④医療系のIT企業に就職したいと思っています。研究よりは開発の分野に行きたいです。

今井さん (当時修士2年)
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2次元画像から生成された脳の血管の3Dモデル

また、普段のスケジュールについてもお聞きしました。 ・週一回のミーティング以外は基本自由で、自宅のPCを使ってリモートで研究を行う人もいる
・集中したいときには夜に研究室に来て朝までコードを書くこともある
・毎日午前に研究室に来て論文を読んだり、他の人と打合せをしたりする
など、自由度がとても高いスケジュールで自分に合ったスタイルで研究ができるようになっているようでした。

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2次元画像を解析している様子

陳さん、Tomasさん、Alexさん、亀田さん、今井さん ありがとうございました!

Epilogue

大島研では、機械系と情報系の2つの分野を融合させて予測医療の最先端を切り開いている。バイオを工学の目線から分析する手法は新鮮で、機械系のカバーする範囲がいかに広いかを実感できる機会であった。それだけでなく、多様な言語、多様な文化に囲まれるこの研究室だからこそ得られる発想があるに違いない。

取材日:2023年4月17日
インタビュー:郭展熙・中川翔太
文責・撮影:    中川翔太

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