名称:東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻 小穴研究室
PI:小穴英廣

小穴教授: うちの研究室は、微細加工技術を使って、分野としては「バイオMEMS」(微細加工技術を用いて作られた微小な機械システム(MEMS)を、生物学や医学の分野に応用した技術)という領域をやっています。マイクロデバイスを作って、その中で細胞や分子を一個一個マニピュレーション(操作)したり、刺激を与えて応答を計測したりしています。例えば、細胞の中のDNAを調べるなら、一個の細胞からDNAを取り出して調べる。あるいは細胞自身に刺激や改変操作をして、新しい性質を持った細胞を作るといったことをしています。調べるという点では生命科学の基礎研究に貢献できますし、細胞機能の改変という点では、医療の診断や再生医療、最近だとがんの免疫療法などに役立ちます。細胞を「薬」として使うような細胞医療への貢献を目指しています。

小穴教授: 昔の生物学はピペットと顕微鏡が主役で、細胞を一個一個扱うのは難しかったんです。ピペットで吸うと何万個もの細胞がいっぺんに来てしまいますからね。そこで機械の技術を使うと、細胞を一個ずつ運んだり、顕微鏡下の所定の場所に置いて刺激を与えたりすることが可能になります。機械の目で見れば、細胞や分子は「水の中でブラウン運動している、小さくて柔らかいもの」です。これをいかにハンドリングするかというのは、機械工学としても非常にチャレンジングで面白いテーマなんです。
小穴教授: 元々は機械系ではなく名古屋大学の応用物理学科の出身で、学生時代は高分子物理の研究室にいました。20年ほど前、ヒトゲノム計画が盛んだった頃に、細胞から取ってきた長いDNAを解析しやすく断片化し、長さごとに分ける技術が必要だったんです。そこで「DNAのダイナミクスを理解して効率よく分離しよう」という研究を始めたのがきっかけです。その後、「光ピンセット」というレーザーで微小物体を動かす技術を使って、DNAや蛋白質を操作しながらそれらがどう相互作用するかを調べるようになりました。そして2000年頃に「マイクロ流体デバイス」が登場し、微細加工した空間で細胞からDNAを取り出してその場で調べることが面白そうだと思い、今の研究スタイルに至っています。

小穴教授: 特に力を入れているのは、がんの免疫治療に使える細胞を効率よく作ることです。「樹状細胞」という、体内で異物を見つけて攻撃命令を出す細胞があるのですが、これにがん細胞の情報を取り込ませてから体内に戻すことで、免疫にがんを攻撃させます。デバイスを使ってがん細胞と樹状細胞の一対一の細胞融合を起こすことでこのプロセスを効率化できるんです。また最近は、医学部の先生と共同で必要な血液細胞を迅速に大量生産可能にすることを目指した研究に取り組んでいます。将来的には臨床医療に貢献したいとも考えています。

小穴教授: 機械工学は歴史が長く、裾野がものすごく広いです。私のようにバイオをやる人間もいれば、全く違うことをやる人間もいて、どんなことでもやれる自由度があります。もし将来に迷っているなら、まずは何か一つ自分の柱となる基礎をしっかり作ってください。機械の基礎がしっかりしていれば、たとえバイオの世界に行っても、専門家と協力しながらどこでも活躍できます。僕自身も、子供の頃はメカトロや電気が好きでしたが、紆余曲折あって今のバイオに行き着きました。あまり深く考えすぎず、まずは機械に来て、その広い裾野の中から面白いものを見つけてほしいですね。