名称:東京大学 大学院情報理工学系研究科 フィールドロボティクス研究室
PI:深尾隆則(東京大学 大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授)
所在地:本郷キャンパス工学部二号館
URL:https://www.robotics.t.u-tokyo.ac.jp/
少子高齢化や労働力不足、災害の頻発といった日本の課題に、ロボット技術がどのように貢献できるか——。東京大学の深尾隆則教授は、農業の自動化や自動運転、災害対応など、現場で役立つフィールドロボティクスの研究を進めている。
深尾教授は、理論だけでは解決できない現場の問題に真正面から向き合い、実用的な技術を開発。野菜・果物の自動収穫・自動輸送技術や運送トラックの自動隊列走行など、社会に直接的に貢献する技術を生み出し続けてきた。本記事では、深尾教授の研究がどのように日本の社会課題に挑戦し、未来を変えていこうとしているのかを探る。私たちは、フィールドロボティクスと呼ばれる分野を研究しています。具体的には、制御や人工知能、機械学習等を用いて、自動車、土木・建設、 農林水産業、宇宙探索、レスキュー、消防、警備など、様々な現場で活用できる技術を開発しています。もともとは理論的な研究をしていましたが、京都大学で新幹線のアクティブサスペンションの共同研究を経て、実際に用いられている技術の複雑さに直面したことをきっかけに、実用的な技術の開発に転向しました。
研究の目的は大きく分けて二つあります。まず、社会的な問題を解決し、社会に直接貢献することです。これには、省エネ、CO2排出削減、交通事故の減少、災害支援、労働力不足の解消などが含まれます。もう一つは、企業との連携を通じて、世界規模での競争力を高めることです。特に、日本では企業と大学の連携がまだ十分ではないため、その重要性を強調しています。
日本では交通事故の死者数は減少していますが、高齢者による事故が増えているのが問題です。自動運転技術は、高齢者の事故を減らすために不可欠です。私たちは、緊急回避技術や濃霧の中の運転を可能にするセンサー技術、さらには信号機に設置したカメラで衝突を予測し車を止める技術にも取り組んでいます。また、以前、輸送トラックの自動隊列走行(図1)の研究も行いました。これにより空気抵抗が減少し、燃費改善やCO2排出削減が期待できます。自動運転技術によって、運送ドライバー不足の解消や、高齢ドライバーの代替も目指しています。現在、トラックのドライバーは肉体的な負担が大きいからか若手が不足しているので、自動化は非常に有効だと考えています。
北海道で飛行船(図2)の実験をしていた際に、農家の方々が朝から夜遅くまで農業をしているのを目の当たりにし、農業の厳しい実情を知ったのがきっかけです。特に農業の高齢化が進んでおり、労働力の確保が大きな課題となっていました。私は、この問題に対して何かできることをしたいという思いから、農業分野の自動化に取り組み始めました。
現在、農業就業者の約3分の2が高齢者となっており、これからも農業就業者はどんどん減っていき、高齢化は深刻化していくと予想されています。このままでは十分な食料が供給できなくなり、成り立たなくなる町が生まれてくる可能性もあります。特に、先ほどの運送業と同様に農作業の多くは肉体的にきついため、若者は農業から離れています。また、農作物の運搬を担う人手も不足しているのも現状です。
現在、浅野君も携わっているキャベツの収穫ロボット(図3)は、外葉を剥いでかごに入れる作業以外は自動化されています。また、トマト、キャベツ、ジャガイモ、たまねぎの収穫(図4)は自動化できるようになっています。果物の収穫も進んでおり、特に梨、ブドウ、リンゴの収穫(図5)は自動化が進んでいます。ただし、果物の自動収穫は、葉を取り除いたり、果実を片側に寄せたりする作業が必要で、完全な自動化にはまだ工夫が必要です。特にミカンは葉を取り除いたり、果実を片側に寄せるのが難しいので、自動化は困難なため、現在取り掛かっているところです。
実際、多くの大企業メーカーは即時の利益を重視する傾向にあるため、農業の自動化には積極的に取り組んでいない傾向があります。逆に中小企業は、技術や資金が足りず、農業の自動化に手を出すことが難しい現状です。このため、私たちは大学と企業の連携を強化し、早いうちから専門的な技術を持つ若手を育成しながら、実用化していくことが重要だと考えています。
ーありがとうございました。
※途中の写真は、深尾先生から頂いたものを使わせていただきました。
取材日:2025年4月15日
インタビュー・文責:西智哉・守矢雅喜