名称:東京大学 工学部機械工学科 趙研究室(DRAGON Lab)
PI:趙漠居
URL:https://www.youtube.com/@Official-DRAGON-Lab
本記事では、東京大学機械工学科でユニークなロボット研究を精力的に進めている趙漠居 先生にお話を伺いました。趙研究室の代名詞ともいえる変形飛行ロボット「DRAGON」をはじめ、陸・海・空といった領域の垣根を超えて活動する「超域的ロボティクス」という壮大なビジョン、活気あふれる研究室の雰囲気などを、熱く語っていただきました。本記事では、インタビューで垣間見えた趙先生の創造性豊かな研究の世界と、そこで活躍するみなさんの未来を切り拓こうとする情熱をお届けします。
趙先生:
私たちの研究室では、大きく分けて2つの柱で研究を進めています。一つは「ダイナミックなロボット」と呼んでいる、動きが分かるようなロボットそのものを作ること。もう一つは、「ジェネレーティブ」といった言葉も関わってきますが、様々なアプローチによる「自動化」です。 ロボット開発は、国の予算などもいただきながら5年後、10年後を見据えた夢のある研究として、一方で自動化技術は、ロボット開発で培った機械設計や制御理論、センサー技術などの要素技術を活かして企業との共同研究という形で進めています。現在21人の学生と一緒に、「世の中にないものを創ろう」という合言葉で様々な研究を行っています。
趙先生:
「DRAGON (Dynamic Robotics with Analytical and Generative automatiON) 」は、私がこの研究室を始めるきっかけの一つで、普通のドローンのようにただ飛ぶだけではなく、関節を持っているのが大きな特徴です。 人間の腕が浮いているような感じで、物を掴んだり、バルブを開け閉めしたりといった作業も可能です。 さらにこれを進化させて、空中だけでなく地上でも活動できる「空陸両用」のような、新しい構造と制御に挑戦しています。 私たちは、物をつくる「ものづくり」、その動きを理解する「機械力学」、そしてそれをどう動かすかという「制御理論」の3つを得意としていて、これらを最大限に活かした研究をしています。 さらに今は、「空陸両用」からさらに「水」も加えた「超域的ロボティクス」という構想の実現を目指しています。自分の活動領域を超えて、異なる領域でも能力を発揮できるロボット、という意味を込めて「超域的ロボティクス」と呼んでいます。 具体的には、ロボット自体の身体特性、変形を可能にするトポロジー(構造)、そして水中や空中、地上といった各環境に応じた力学モデル、この3つの要素を統合して考えています。 例えば、4足ロボットがヘビのように変形して水中でヒレを使って泳いだり、リング状になって空を飛んだり、アームを生やして物を操作したりと、移動だけでなく作業内容に応じて自身の形を変える「トランスフォーマー」のようなロボットを目指しています。
趙先生:
やはり「自分たちの想像力を形にしたい」という強い思いが原点ですね。 自分たちの手で何かを作り上げ、それに魂を込めて、実際に動かす。このロボット特有の動きを考えていく。その過程で設計の工夫をしたり、動きを深く理解したりして、実際に作るだけでなく、その制御まで考えたりするわけです。 そして面白いのは、物ができてから「あ、これってこういう用途にも使えるんじゃないか」と新しい可能性がどんどん見えてくるというところです。例えば「DRAGON」の場合では、作った後に他の先生と話している中で、「これ、バブルの開け閉めもできるんじゃないですかね」という話になったり。この発見の連鎖が、まさに学問の楽しさであり、私たちの探求心を刺激するんです。 また、私自身、「ロボット=人型ロボット」というわけではないと感じています。人型だけでなく多様な形があってもいいはずで、実現したい動きや環境に適した形があるのではないかと考えているのです。それを探求する中で、生物の進化のように、ロボットが次にどんな形になり得るのかを工学的な視点から考えるのは非常に興味深いですね。あるいはもしかすると、逆に考古学的に進化を遡っていくこともできるのかもしれない。つまり、ロボットを通して未来にも過去にも繋がっていくことができるのではないかと考えています(笑)
趙先生:
学生たちは学部4年生から研究室に所属し、博士課程の学生もいます。 この研究室の特徴の一つは、例えばアニメやゲームに出てくるようなものでも、「これを再現したら面白いんじゃないか」という純粋な好奇心や遊び心を研究に結びつけられるところですね。 学生が「呪術廻戦」に出てくるキャラクターをモチーフにしたロボット開発に取り組んだり、複数の小型ロボットが協力して大きな物を運ぶ「ピクミンシステム」と名付けた研究をしたりと、自由な発想を歓迎しています。
学生:
この研究室では、自分の「面白い!」と思ったアイデアを実際に形にできるのが一番の魅力です。手を動かしてハードウェアを作り、シミュレーションだけでなく、実際に触って動かして、時には壊しながら(笑)学べます。ハードもソフトも両方やりますし、先生や先輩方も協力的で、とにかく自由な雰囲気です。自分で考えて研究を進められるようにサポートしてもらえるところが気に入っています。
趙先生:
大きなテーマとしては、まず「人とドローンのインタラクション」ですね。 今のドローンは、どうしても「うるさい」「怖い」といったイメージが先行しがちですが、もっと人に近い、親しみやすい存在にできないかと考えています。 例えば、私たちにとって「龍」とはどういう存在なのか、といった文化的な側面も踏まえつつ、人が心地よく感じる飛行ロボットの形や動きを設計し、それを評価してまた設計に活かす、というサイクルで研究を進めたいです。 もう一つは、「建築分野への応用」です。 私たちが開発しているような自由度の高い飛行ロボットを使えば、3Dプリンターのノズルを複雑な角度に向けることが可能になり、従来の積層造形では難しかった斬新なデザインの建築物を造れる可能性があります。 将来的には、ゲームの「マインクラフト」のように空中にブロックを配置して建物を建てたり、さらには宇宙での基地建設といった、新しい建築のあり方や惑星開発に貢献できたら、という夢も持っています。
趙先生:
YouTubeで公開した動画には、うるさくて「ナイトメア(悪夢のよう)だ」なんていうコメントもありましたね(笑)。あるいは「モスキート(=蚊)がいっぱいいるみたいだ」とか(笑)。ただ、プロペラを使っている以上、風切り音を完全になくすのは難しいんです。つまり、メカニズムを変えなければいけない。そこで私たちは、鳥や昆虫のような「羽ばたき」による飛行メカニズムも研究しています。 羽ばたきは制御が複雑ですが、静かで、軽量かつ安全性が高いため、特に人との近距離でのインタラクションに適していると考えています。学生が、「鷹匠」のように人の手のひらを差し出すと自動でそこに着陸する羽ばたきロボットも開発していますよ。
学生:
身内びいきにはなるんですけど、僕が思うのは、2号館のエレベーターを降りて一番賑やかそうなのがうちの研究室なんじゃないかっていうことですね(笑)。とても活気があって、研究活動以外の関わりも多いです。
趙先生:
それはいいところだけどさ、もっと他にいいところないの?(笑)
学生:
真面目に言うと(笑)、一番自分の考えてるものを具現化できるというところはあるかなって思います。シミュレーションにとどまらない。ソフトもハードもやる。そこが魅力かなと。
学生:
先輩も先生も話しやすく、みんながモチベーション高く研究しているので、自分も自然と頑張れます。具体的な予定がなくても行こうかなって思える。自由な環境で、自分の力で研究を進めていくためのサポートをしっかりしてくれるのが良いところですね。縦のつながりが強いのも魅力です。
趙先生:
機械工学の基本は、4力学(=材料力学、流体力学、熱力学、機械力学)と設計・生産技術です。そこから言うとこの研究室が直接的に扱っているのは機械工学の一部で、 ロボットという具体的な形あるものを作っていますが、その根底には必ずこれらの機械工学の知識が生きています。そうした基礎を総動員して「まだ世の中にない新しい何か」を生み出す面白さがここにはあります。興味を持ってくれた方は、ぜひ私たちの研究室の扉を叩いてみてください。ちなみに、研究室の活動はYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@Official-DRAGON-Lab)でも発信していて、フォロワーが少しずつ増えるのを見るのが最近の密かな楽しみです。ぜひチャンネル登録もよろしくお願いします(笑)。
— ありがとうございました!
Johannesさん:
この研究室を選んだのは、ドローンや空中ロボットという研究トピックが私にとって非常に興味深かったからです。 他の研究室と比較しても、ここの研究テーマはとてもユニークだと感じました。 また、多くの研究室がそれぞれ異なる研究焦点を持っている中で、ここは私が本当に関心を持っている「制御」というテーマが主要な焦点の一つであり、この分野で新しい手法を開発している点も魅力でした。 同じ分野で研究している人たちに囲まれている環境であることも、私にとっては重要でしたね。 この研究室のその点が本当に素晴らしいと感じています。
Johannesさん:
私は、制御理論における既存の古典的な手法と、現代的な手法を組み合わせた新しいアプローチの開発に焦点を当てています。 具体的には、「モデル予測制御」と呼ばれるものと、「強化学習」と呼ばれるものです。 これら二つの制御理論の分野から、いかにして利点を引き出し組み合わせるかを研究したいと考えています。 新しい学生さんにとっても興味深い点として、趙先生がポストドクター時代に築き上げた非常に優れた基礎研究のベースラインがあり、誰もがその上で研究を進めることができるという点があります。 ですから、学生はそれぞれのベースラインの上に独自の手法やプロジェクトを考え出すことができ、そこから個々の研究を発展させていくことができます。 これによって、共同研究的な側面と個性的な研究、両方が生まれています。
Johannesさん:
まさにその通りです。 私がこの研究室で特に素晴らしいと感じているのは、趙先生が与えてくれる自由度が高い点です。 例えば、プロジェクトの方向性を選ぶこともできますし、誰と、どのように、いつ研究するかも選べます。 この自由さが、皆のモチベーションを高めていると感じますね。
Johannesさん:
先ほどお話ししたのが私の全体的な研究テーマですが、現在は主に、この研究室で「非線形モデル予測制御」と呼ばれる手法を用い、そこに学習要素を導入することに注力しています。 アイデアとしては、環境の数学モデル、例えば研究室にたくさんあるドローンの各プロペラが空気にどのような影響を与え、どのように揚力を生み出すか、といったモデルを利用します。 これらの数学モデルは非常に優れていますが、現実を完全に表現できているわけではありません。 数学モデルと現実の間には常にギャップが存在するのです。 私の研究では、学習モデルを導入することによって、このギャップを埋めようとしています。
— ありがとうございました!
趙研究室には、既存の枠にとらわれない自由な発想力と、それを具現化するための確かな技術力、そして何よりも研究活動そのものを心から楽しもうとする姿勢がありました。 趙研究室から、次にどのような「世の中にないもの」が誕生するのか、楽しみですね。
取材にご協力いただいた皆さん
研究室名:趙研究室(DRAGON Lab)
所属:東京大学 工学部機械工学科
教員:趙漠居 講師
学生:Johannes KÜBEL さん(D1)、中田 雄大 さん(B4)、塚崎 馨士 さん(B4)、平田 泰之 さん(B4)、沼里 一輝 さん(B4)